山暮らしkikori塾 その3 イベントレポート

2023年1月28日~29日に「山暮らしkikori塾その3」が開催されました!
当日の様子をお届けします。

伊那谷の冬の寒さを実感

その3が開催されたのは、日本全国に寒波に襲われた日の翌週でした。

日本各地で積雪により渋滞や立ち往生が発生していたため、現地にたどり着けるか直前まで見えないところがありましたが、当日は無事に参加者全員が開催地である伊那市高遠町に訪れることができました

長野の中でも南部に位置するこの伊那谷地域は、晴天率が高く雨や雪も少ないですが、その分気温が下がりやすいので冬は氷点下15度以下になることもあります。

しかし今回の寒波では5~10年ぶりに多くの雪が積もり、一面の銀世界で路面凍結しているところも多くありました。

当日は雲一つない晴天のした、凍てつく寒さに、参加者は長野の冬の寒さを実感していました。

今回は広葉樹の伐採!針葉樹との違いは…

その1、その2では檜などの針葉樹を伐採してきました。今回は初めて広葉樹を伐採します。

一般的に針葉樹はまっすぐで、建材などとして利用価値が高く、成長スピードも速く、軽いとされます。

一方、広葉樹は複雑な樹形で、硬くて重たいものが一般的です。

広葉樹でも木の種類により粘りや硬さが違うため、それぞれの木の特徴や、現場に合わせて切り方を変えていく必要があります。

ただし、伐倒手順はこれまで学んだことと変わりません。ひとつずつ確認しながら伐採していきます。

針葉樹より複雑に枝を伸ばす広葉樹。頭上の確認をしていきます。

斜面での伐採では、雪によりさらに足場が悪く、切るのが大変。きちんと準備運動してから臨みます。

いよいよ伐採していきます。

重心が傾いている木で、裂けやすい種類の木は特に注意が必要です。すでに木に圧力がかかっているので、追い口を切りはじめた瞬間に裂けることもあり、裂けた木に弾き飛ばされる死亡事故もあります。

重心がすでに傾いている場合は、重心方向から30度程度伐倒方向を左右にずらす、受け口を深く切る、追い口を高めに切るなど、裂けないような工夫が必要です。

ここでクイズです。

<問題>

こちらの広葉樹はふたまたに分かれていて、どちらから先に切るかを決めなくてはいけません。

結論として左側を先に切ることになりましたが、なぜだか分かりますか?

<答え>

もし右の幹(青)から先に切ると、右の幹の枯れ枝(緑)が、左の幹(赤)に引っかかり、伐採途中で緑の部分が折れて頭に激突する可能性があるから。

だそう。

状況を観察し、的確に判断する能力がとても必要とされます。

いざ伐採。

重たい地響きを鳴らしながら、クルミが倒れました。

裂けることなくうまく切れています。

外側に近い部分を辺材(白太/白身)と、中心の色の濃い部分を芯材(赤身)といいます。芯材は辺材に比べて強度があり、腐りにくいという特徴があるそうです。樹種によって辺材と芯材の区別がつかないこともものもありますが、クルミははっきりとその差が分かります。

辺材と芯材の美しいコントラス

寒い中で作業した後は、宿泊施設である「赤石商店」での美味しいごはんとぽかぽかサウナで体を温めました。

赤石商店

木が板になる過程を学ぶ 有賀製材所見学

搬出が完了した重い広葉樹をトラックに積み込み、伊那市にある「有賀製材所」に持ち込みました。

有賀製材所は地域材の製材、加工、そして無垢の住宅の設計・施工も行っている製材所です。

今回は有賀製材所で18年間製材を担当するダリューシュさんに、その場で製材をしてもらいました。

帯鋸というとても大きな刃が高速で回転し、丸太をスライスしていきます。

巨大な帯鋸ですが、石や釘があたると刃が切れなくなります。針葉樹の製材だと、半日で変えないといけないことも。

今回は3本のクルミをそれぞれ25mm板、30mmの板、角材に製材してもらいました。

現れる美しい木目にうっとり。
切りたての板の断面は湿っていて、気温0度のこの日は氷のような冷たさでした。

製材後にダリューシュさんにお話を聞きました。

広葉樹は個性があって面白い、とのこと

かつてはたくさんあった製材所も、現在はかなり数が減ってしまったそうです。山を持っていても製材することができないと、薪にしか活用できません。

近くの山にある木よりも、遠い遠い外国から運ばれてくる外国産材の方が安く、家を建てるハウスメーカーも顧客も価格を考えるとより安い方を選びがちです。

そんな中で有賀製材所さんでは製材だけでなく、住宅の設計/施工も行っており、地域材などの無垢の木や自然素材にこだわった住宅の提案もされています。

また、有賀製材所さんでは一般の人でも木を持ち込んで製材(賃引き)してもらうことができます。

「一本だけでもいいのですか?」という質問に対して、ダリューシュさんは力強く「もちろん。家の庭にあった樹が板となり、また家で使われ続けて欲しい」と答えていたのが印象的でした。

ただ木を木材にしているのではなく、この土地とここにある人々の暮らしを思い、製材機を回しているように感じられました。

(株)有賀製材所

  • 住所 長野県伊那市西箕輪2020番地
  • TEL 0265-73-3932
  • WEBサイト 

木が板になり、使われる過程を学ぶ 家具工房 in the pond

製材した板を今度は家具工房 in the pondに持ち込みました。

家具作りは精密さが求められます。0.1mm単位で正確に木を加工するために、工場内にはどっしりとした機械がたくさん置かれてありました。

代表の池中睦貴さんが、それらの機械を説明しながら、持ち込んだ板を加工していきます。

家具としては、色の濃い外国産材のブラックウォルナットが好まれたりもしますが、今回製材したオニグルミも個性があって素敵なので池中さんもよく使うそうです。

今回は木の加工を体験するために、スプーンづくりをおこないました。サンプルのスプーンを見ながら理想のスプーンを考えます。

日常的に使っているスプーンでも、使い勝手が考えてデザインされていることに気が付きました。持ちやすい太さやカーブ、口に触れる部分の深さや口当たりなど、何を食べる/すくうために使うかそれぞれがイメージしていきます。

まずは木にスプーンの形を書き、バンドソーで大体の形にカットします。

あとはナイフややすりを使い、理想の形に仕上げていきます。木目の向きによって削りにくい場合は反対向きにして削る、ナイフを変えたりクランプやひもなどで固定して彫るなど、やりやすい方法を会得していきます。

最後やオイルで仕上げます。揮発性の高いオイルが良いので、自宅にあるものだとオリーブオイルなどがいいそうです。

その場にあった食べられるクルミを布巾につつんでつぶし、染み出たオイルを塗る方法も教えてもらいました。生きる知恵ですね。

完成!

一つとして同じものがない。スプーンも木も人も。

池中さんは14歳の時に伊那市高遠町に山村留学をし、自給自足の山暮らしの中で山仕事に出会ったそうです。18歳から林業者として働き、切り捨てられた木でスプーンなどを作る中で、山の木で家具をつくる家具職人を目指したそうです。木の魅力を引き出し、山と暮らしがもっと身近に感じてもらえるようなモノづくりをしていきたい、という池中さんの思いが人柄や作品にあふれていました。

in the pond

  • 住所 長野県伊那市手良野口
  • オーダー家具やスプーン、ランプシェードなど様々なものを木で作る
  • instagram 

3回目を終えて

今回は山から里に下りて製材や加工を知りました。

ダリューシュさんや池中さんなど、林業に関わる以外の人からも自然や地域を思う気持ちを聞くことができ、参加者も自然に寄り添った暮らしについて、より思いを深められたようでした。

さて、次回の最終回は雪が解け、花が咲き乱れる4月後半に実施します。
今まで伐採した木を使った古民家改修など「住」を学ぶ他ほか、山を歩き山菜などの「食」も学ぶ予定です。

みなさん寒かったね!次はぽかぽかの春に会いましょう!(by 盛テン)