山暮らしkikori塾 その2 イベントレポート
2022年10月22日~23日に「山暮らしkikori塾その2」が開催されました!
当日の様子をお届けします。
はや3か月
「その1」が開催されたのは7月半ば。
それから早くも3か月が経ち、濃い緑色だった伊那市高遠町の山々も、少しずつ秋の色に変わりはじめていました
恵みの秋と言いますが、山の中を見渡すとたくさんのきのこたちが顔を覗かせています。
同じ秋でも1週間違えば出てくるきのこも違います。
地域の方たちは、「あそこの山でショウゲンジ(きのこの名前)が出始めたぞ」などと、この時期にしか食べられない味覚を求めて、熊鈴を腰につけて早朝からきのこ狩りにいったりします。
季節を五感で感じる、自然に寄り添った暮らし。
さて、今回の山暮らしkikori塾その2も、そんな山暮らしを学び、実践するために6名の参加者が参加してくれました。
立ち木を伐採
前回のその1では、チェーンソーの基本的な扱い方やチェーンソーを使った受け口、追い口づくりの練習、玉切りの練習をしました。
第二回の今回は、いよいよ立ち木を伐採!
準備した参加者の格好も以前よりもさまになっています。
まずは塾長、盛太志さんの伐採を見学しました。
1t以上ある檜がメリメリと音を立てて、想定していた方向に倒れました。
森の中に檜の香りが漂います。
大きな木を思った方向に倒すことは、素人が思っている以上に難しいです。
まずは地形や運び出すことを考えて伐倒方向を決め、安全に問題ないか、木が思わぬ方向に動いた場合に備えて逃げる場所はあるかなどを考えて木を切る必要があります。
そしてどんな林業のプロでもちょっとした気のゆるみが大きな事故につながることがあります。
年間30人~40人が亡くなる林業。「基本的なことを当たり前にやることが何より大事」という盛塾長の教えを元に、伐採の手順を学びました。
<伐採の手順>
- 上方よし!
- 足元よし!
- 退避場所よし!
- 伐倒方向よし!
- 周囲確認よし!
- 合図
一つずつ伐採の手順について見ていきましょう。
①上方よし
チェーンソーの刃を当てる場所は地面から30cm程度のところですが、木は幹から四方に枝を伸ばし、周囲の木々と干渉していたり、他の木がかかっていることもあります。
まずは頭上にある木の様子を観察し、危険はないか、どこに倒すのが理想的かを考えます。
伐採場所は水平ではなく、角度のある斜面。木の周りのいろんな方向から、上方の様子を観察します。
②足元よし
伐採をおこなう時や、退避場所へ退避する際に、足元の丸太や枝で転倒する可能性があります。
切り捨てられた丸太をどけ、邪魔な藪をチェーンソーで払い、作業がしやすいように足元を整えます。
面倒くさがって端折ってしまいそうな作業ですが、塾長が丁寧に足元を整えていたのが印象的でした。
③退避場所よし
倒れる木が、どんな林業のプロでも予想できないような動きをすることがあります。
突然切った木が自分に向かってきた時にはもう逃げられません。
そんな万が一の場合に備えて、伐採場所から数mの場所を退避場所として確保しておく必要があります。
思わぬ方向から枝が飛んでくる可能性もあるので、他の木の陰が理想的です。
伐採場所から退避場所までスムーズに退避できるか、足元に邪魔なものやツルがないかも確認します。
④伐倒方向よし
最初に入れる切り込みを「受け口」、その後反対側から入れる切り込みを「追い口」と言います。
この「受け口」の作り方で倒れる方向が決まってきます。
受け口を一度切った後も、離れたところから受け口を見て本当にその方向に倒れそうかを確認し、ずれているようだったら再び受け口の切り込みを深くするなどして角度を微調整し、伐倒方向が問題ないか確認します。
⑤周囲確認よし
追い口を切る前には周囲に人がいないか、危険物がないかなど再度確認します。
⑤合図!
チェーンソーを吹かして、追い口を切る準備が整いました。
切り始める時には周りの人に声で合図をしてから切っていきます。
職業としての林業はチームでおこなうもの。きちんと声掛けをして連携をし、全員が安全に伐採ができるように行っていきます。
さて、いよいよ伐採です。
追い口の高さは、受け口の高さの下から3分の1ほどの。受け口と平行になるように、チェーンソーをまっすぐ水平に入れていきます。
そして木が倒れ始めたら、すぐに退避場所に退避します。
倒れた木を見て分かるのが、やはり当初予定していた伐倒方向にはなかなか倒れないということ。
受け口の角度の問題か、追い口が受け口と平行に切れなかったらから、枝が絡まったせいか・・・
伐採した木の断面を見ながら、講師からフィードバックをもらいます。
受け口と追い口の間に「ツル」と呼ばれる部分があり、そこが蝶番の役割をします。
追い口を切りすぎず、ツルを残すことで、受け口で切った角度の方向にゆっくりと倒すことができます。
今回は針葉樹の檜の伐採でしたが、木の種類によって粘りや硬さが違います。
樹種や木の状態によって受け口なども少しずつ変える必要があるそうです。
枝払いも行いました。
一見簡単なように見える枝払いも、枝にどのように力がかかっているかを見ながら切っていく必要があります。
何も考えずに切ると切った枝が自分の方向にばねのように飛んできて大けがにつながることがあります。
肌寒さが増してきた山の中ですが、全神経を集中させながら木を倒していると、
体が熱くなってチェーンソーを握る手が汗ばんでくる、と参加者のひとりが教えてくれました。
二日目 伐採のつづき
一日目の夜は焚火や薪ストーブなどで木と火のある暮らしを楽しみ、とれたてのキノコをあぶって山の幸も楽しみました。
さて、二日目もふたたび参加者は木を伐採します。
参加者の一人が挑戦した難易度の高い伐採では、想定していた角度からわずかにずれたために、複数の別の木に絡んでしまいました。
一度絡んでしまうとロープで引っ張ったり、少しずつ切り刻む必要があるため、時間もかかるうえ長い材として使えなくなってしまいます。
いかにうまく倒すことが重要で、そしてそれがいかに難しいかを体験することができました。
搬出
そして切った木は必要な長さにして運び出します。
搬出に使ったのは昔ながらの「トチカン(引かん)」と呼ばれる道具。
鉄でできた釘に丸い輪っかが付いたもので、釘の部分を木に打ち付けて、輪っかにひもを通して引っ張ります。
引っ張ってみると、その重さに驚きます。
昔は木の伐採は主に冬に行われていました。
理由はいくつかあるようですが、よく言われるのは、冬は水を吸い上げないので「くるい」が少なく腐りにくい良い材になるため。
ほかには搬出が楽、という理由があるそうです。この重い木たちを、雪を利用してソリに載せて滑り下ろしたり、凍った地面を踏み固めて林道代わりに利用して搬出したようです。
丸太の重さを体感した後は、より昔の林業の在り方の合理性を感じられました。
lunch time
さて、二日目の昼食は、伊那市で手作りソーセージの販売などをしているブッチャーの特製弁当。
ソーセージをはじめ、サラミ、パテなど5種類の自家製加工肉や、地元の野菜を使った付け合わせやサラダなどを楽しみ、午後に向けてエネルギーを充電しました。(ブッチャーのinstagramはこちら)
皮剥き
山からおろしてきた木は、「その4」で実施する予定の古民家改修で、屋外デッキの丸柱として使用します。
ホームセンターでは角材の柱は販売されていますが、丸柱はほとんど販売されていません。
自分で丸柱を作るためには、木の皮を剥く(削る)必要があります。
実は7月に開催された「その1」でも、少しだけこの皮剥きを体験しました。
木は夏場にはたくさんの水分を吸い上げます。7月の時には、切れ目を入れれば手でも気持ちよいくらいペロッと皮がむけましたが、10月になるとそういうわけにはいきません。両手のなたや、「ちょうな」という道具を使って皮を剥いていきます。
もともと虫に食われないようにするために皮やシラタを削っていく作業でしたが、独特の削り跡を残して美しく加工する「名栗(なぐり)加工」という日本固有の加工技術も生まれました。
最後はメンテナンス
最後は「その1」でも実施した目立てなどのチェーンソーのメンテナンスを行いました。
「泣くほど研いで、笑うほど切れる」ことを目指して、一つずつの刃を丁寧に研いでいきます。
「目立てが何より重要」、という塾長の教えにならい、今回もたっぷりと時間をかけて目立てを行いました。
まとめ
この山暮らし木こり塾のテーマは「暮らし」。
前回の「その1」の時に、参加者の皆さんに「1年後の暮らし」というテーマで目標を書いてもらいました。
その中のひとりマサヤさんは「移住」という目標を書いてくれていたのですが、なんと今回すでに高遠に家を見つけて移住に向けて準備を始めていました!
山の景色が変わっていくように、それぞれの暮らしも日々変化をしていっていますね。
そして今回は地元に住む講師の子どもたちだけではなく、参加者のお子さんも遠いところから参加し、伐採の見学や、皮むきの体験、焚火の体験をしてくれました。
小さい頃に父親にキャンプに連れて行ってもらった思い出が大人になっても残っているような、そんな記憶に残る一日になってくれれば嬉しいです。
山暮らし、あるいは自然に近い暮らしをしたいという思いのある参加者のみなさんはのまなざしは常に真剣で、すでにきこりの第一歩を踏み出しているように見えました。
次回は広葉樹を伐採し、その製材過程などについても学んでいきます!